雪がとけたら


「出来るだけ食おうよ。何なら食えそう?俺…」

カタンと、あいつはコップを倒した。

幸い中身はもうなかったが、僕はそれを立て直しながら「どうした?」と聞く。


…あいつの顔は真っ青だった。

驚いて思わず肩を掴む。

「悟子!?大丈…」
「ごめ…ちょっと…」

あいつは僕の手を振り払い、ふらふらと覚束ない足取りでベッドから降りた。

2、3歩歩いたかと思ったら、すぐに体を支えきれずに床にへばりつく。


「!!悟…」



…僕が手をのばした瞬間、あいつは吐いた。

胃の中にはほとんど何もないから、吐くのは胃液ばかりだった。

僕は早くなる心臓を止められないままに、無我夢中でナースコールを押す。

「悟…っ」
「来ないでっ!!」

苦しそうに吐く息の間で、あいつは叫んだ。


「来ないで…っ、見ないでっ!!あたしを見ないでっ!!」


…打ちのめされた様に立ち尽くす僕の前に、看護師さん達が数人現れた。

泣きじゃくるあいつを立たせながら「大丈夫よ」となだめる看護師さんは、僕に「少し出ててくれる?」と優しく囁く。

あいつの横を通りすぎた時、「見ないで…」というあいつの小さな声を聞いた。



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