雪がとけたら



……………


入り口が開く度に顔を上げるが、今入ってきた人も彼ではなかった。

携帯を開けるとまだ待ち合わせ時間の五分前だから、僕の気が焦っていることになる。

大分肌寒くなってきたので長袖を着ている人が目立ってきたが、僕は相変わらず半袖にカーディガンを羽織っていた。


パタンと携帯を閉じた瞬間、再びドアが開く。

その人と目が合った瞬間、僕は立ち上がり会釈をする。

彼もまた優しい笑顔をたたえながら、「待たせたかな」と前の席についた。


ウェイターが来て彼はブレンドを頼むと、羽織っていたスーツを脱ぐ。

「悪かったね、呼び出してしまって」
「いえ。学校終わって時間ありましたから」

彼のブレンドが来るまでは軽い世間話をしていたが、ブレンドが机に置かれてからどちらからともなく口を閉じた。



「悟子の…ことですよね?」

僕はブレンドの湯気を見ながら呟く。

彼…悟子の父親はその湯気をゆっくり吸い込むようにし、ブレンドを一口飲んで話し始めた。

「…心配…かけたね」

カチャンと陶器のすれる音がする。

「いえ…」と言いながらも、僕も落ち着くためにアメリカンコーヒーを口に含んだ。

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