雪がとけたら
「1人で大丈夫な人間なんか、いるはずないのにな」と彼は苦笑し、ブレンドを一口飲んだ。
「悟子はずっと…自分がしっかりしなくてはいけないと思っていたんだと思う。母親のこともあるし…僕にね、心配かけちゃいけないと気負っていたんだ。だから…平気なふりをしていた。どんなに仕事が大変でも、君に…雪君に会えなくても、気丈に振る舞わなくちゃいけないと思い込んでいたんだよ。それが…あの子のストレスに繋がった」
そこまで話すと、おじさんは一息つくようにブレンドに手をのばした。
口にはせずにカップを回す。
「雪君…」
ふいにおじさんが口を開いた。
真剣な目を僕に向ける。
「悟子の…あの子の側に、いてやってくれないか?」
僕もまた、真剣な表情をしていた。
「中学生の時の出来事…君も知ってると思う。それからあの子は、笑うことがなくなったんだ。でも…君に再会して、再びあの子に笑顔が戻った。父親がこんなこと言うのもおかしいかもしれないけどね」
彼は苦笑しながらも、真剣に言う。
「あの子の中心には…いつも君がいるんだ。小さな頃から…今も、ずっと。」