雪がとけたら




……………


「起きてると思った」


カチャリとドアがあいたと思うと同時に、あいつの声が頭の上に響いた。

カーディガンを羽織り、リビングに出てきたあいつは僕の隣に腰をおろす。


「何で起きてると思ったの?」
「だって雪ちゃん、昔からこういうイベントの夜は寝れなかったでしょ?」


豆電球の下で笑うあいつの顔は、影と光がバランス良く存在していた。


僕は苦笑しながら「否定できねぇなぁ」と呟く。

僕等はしばらく声を殺して笑いあっていたが、やがてお互い口をつぐんだ。


「…なんか、あっという間だね。一泊二日って」
「だな。でも楽しかった」


はしゃぎまわった1日。

何を話すわけでもなかったけど、でもひたすら楽しかった。



「…ねぇ雪ちゃん」


ふいにあいつが呟く。





「キスしようよ」






のぞきこむ様に僕の瞳を見つめるあいつ。

少し目を丸くしたが、僕は指先であいつの頬に触れた。




…そっと、小さな口付けを交わす。


初めてキスを交わした、あの日の様に。





ゆっくりと離れた僕の胸に、あいつは体を預けた。


僕はその肩を抱く。



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