雪がとけたら


「…彩架ちゃん、無事だったんだってね」
「うん…。この前退院したらしい」


…彩架ちゃんが無事で、僕達は本当に安心した。

中川が命をかけて助けた命だ。

…命をかけて。




「一久君達は?寮?」
「あぁ。でもなんか…空元気。見てて少し辛いよ。こんな時まで…明るく振る舞わなくてもいいんだけどな」

一久とナァも、目に見えて落ち込んでいた。

でもそれを悟られない様に、また、多分俺達に気を使ってなるべくいつも通りに振る舞おうとしていた。

自分達だって、相当こたえてるはずなのに。




「…それ」

ふいに佐久間さんが、俺の紙袋を指差した。

「あぁ…」と言いながら、それを見せる。

「…少し早いけど…今戸田さんに、見せておくべきなんじゃないかと思って」

カサッと紙袋を閉じる。

思い出が胸に痛い。


「…うん。見せてあげて。雪君もきっと…それを望んでる」

小さく微笑む佐久間さんを見ながら、俺も安心して「そうだな」と言った。








…中川。



俺が今お前にしてやれることは、これくらいしかねぇよ。


中川が伝えたかったこと、








俺が引き受けるから。






……………





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