雪がとけたら
……………
『悟子』
…何度目だろう。
今日雪ちゃんに呼ばれたのは。
頭のなかでぐるぐると、雪ちゃんの声だけが響いてる。
…いつだっただろう。
雪ちゃんと二人、記憶について話したのは。
『知ってる?人の記憶に一番残りやすいのは、嗅覚なんだって』
いつまで記憶に残るだろうか。
雪ちゃんの声も、顔も。
いつまで雪ちゃんは、あたしを呼んでくれるだろう。
『悟子』
…「戸田さん」
顔を上げると、西君がいた。
「西君」
だったら…
「雪ちゃんは?」
『西君、バスケ上手そうだよね』
『戸田さん、それは最もありきたりな偏見だよ』
『ほら、遅れるから』
…困った様な西君の笑顔が、あたしを現実に引き戻す。
「あ…ごめ…」
思わず短くなった髪をかいた。
「何言ってるんだろあたし…ちょっとぼーっとしすぎちゃった」
苦笑しながら呟く。
「…雪ちゃんは、もういないのにね」