雪がとけたら



…口にしておいて実感はない。


だってほら、今にも雪ちゃんはあたしの前に現れそうでしょう?


『久しぶり』なんて言いながら、いつものあの笑顔で。


『短くなったな』なんて、あたしの髪を撫でながら…。





「…大丈夫?」


心配そうに聞く西君に、あたしは無理に微笑んだ。


西君だって辛いはずだ。

西君と雪ちゃんは、親友だった。

親友を亡くす辛さは、あたしが一番よく見てきた。




…お母さんを、見てきた。











「戸田さん…これ」


ふいに西君が手に持っていた紙袋を差し出した。

視線が移る。



「…これ…」



…中には、ハンディカメラが入っていた。

あたしはそれを、そっと取り出す。




「…見てほしいんだ、戸田さんに」
「え…?」




西君は手慣れた様子で、そのスイッチを入れた。

ピピッと電子音が部屋に響き、ジジーッとゆっくり動き始める。



あたしは何もわからないまま、黒い画面を見つめていた。





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