雪がとけたら



「これさ」


西君の声で、ふいに現実に引き戻された気がした。


「これ…ドッキリのつもりで作ってたんだ。戸田さんの誕生日パーティーにあいつが他の女とデートしてるって設定で…で、突然このビデオ流して驚かそうぜって…」



二年前の海を思い出した。

あの日もみんなは、あたしに内緒で誕生日を祝ってくれた。

帰り道、みんなに隠れてそっとキスをしたことも、まだ鮮明に記憶に残っている。








…雪ちゃんのぬくもりが、まだ。









「俺さ、思うんだ。好きって気持ちには、理由がいるんだって」


話し始めた西君に視線を移す。


「例えばさ…美味しいから好きだとか、綺麗だから好きだとか、楽しいから好きだとか…そういう理由が、好きって気持ちには必要だと思う。」


西君は、真剣にあたしを見ていた。

真剣に、話していた。


「でもさ、そういう理由がなくなった時…理由がなくなった時に、好きは愛に変わると思う。愛に変わった気持ちは、何十年、何百年たっても、色褪せることはないんだよ。思いだけは…消えることはないから。誰かの心の中にずっと、愛は生き続けることができるんだよ。」



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