雪がとけたら
…ドアの向こうには、1人の女性と小さな女の子がいた。
女性はあたしを見ると、深々と丁寧にお辞儀をする。
あたしはその小さな女の子の名前を呼んだ。
「彩架ちゃん…」
西君も驚いたのか、二人を瞬きもせず見つめていた。
入り口で少し戸惑う様な仕草を見せていたが、やがて彩架ちゃんはゆっくりと部屋に足を踏み入れた。
驚くあたしのベッドまで近づくと、そっと小さな手を差し出す。
「これ…」
…シャラッと、ストラップが揺れる。
それは、雪ちゃんの携帯だった。
「これね…お兄ちゃんに、渡されたの。お姉ちゃんに渡して欲しいって…」
彩架ちゃんは俯いて呟く。
彩架ちゃんの後ろで、母親が口を開いた。
「彩架…ずっとその携帯を握ってたんです。何か凄く大切なものなんじゃないかって…充電だけは、ずっとしておいたんですけど…」
あたしは彩架ちゃんからその携帯を受け取り、「雪ちゃんが…?」と呟く。
彩架ちゃんは、小さな頭をコクリと頷かせた。
震える手で携帯をあけると、雪ちゃんらしいシンプルな待ち受けが現れた。