雪がとけたら



僕は泣けなかった。


なんであいつがこんなに泣いているのかもわからなかった。



だって信じられないんだ。


「行ってらっしゃい」って言ったのに。


笑顔でそう言ったのに。


なんで「お帰り」の一言がないんだ?









僕は信じられなかった。



父さんと母さんが死んだなんて、



全然信じられなかった。











…僕は結局、冷たくなった二人と会わせてはもらえなかった。

大人達に言わせると、「子どもに見せられる状態じゃなかった」らしい。


なんでもいいから、僕は二人に会いたかった。


だって僕は、二人の最後の笑顔をはっきりと覚えてない。

急いであいつの所に走って行ったから、僕は記憶に焼き付けられなかったんだ。

最後の二人の記憶は、「行ってらっしゃい」という声と、家族写真から切り取られた遺影。




僕だけがいない家族写真。




そこに僕がいないのが、不自然でしょうがなかった。








……………




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