雪がとけたら
第一章【幼い日々】
……………
僕は、あいつと出会った日を覚えていない。
気付いたら隣にいて、気付いたら僕を見下ろしていた。
ウサギのマスコットの付いた赤いランドセルを背負い、振り向いてあの声で「雪ちゃん」と呼ぶ。
僕は少ししかめっ面をして、潰れた黒いランドセルをカタコト鳴らしながらあいつの横に並ぶ。
それが当たり前の日常だった。
同級生の奴らは僕等を見て、「毎日毎日いちゃつくなよ」と冷やかす。
僕はそれにいちいち反応して、顔を紅潮させたり、たまにしつこい奴を殴り倒したりしていた。(もちろん全勝とまではいかなかったけれど)
でもあいつは決して動揺することもなかったし、僕みたいに手を出すこともなかった。
喧嘩した僕の傷に触れながら、「言わせとけばいいのに」と、大きな目を心配そうに細めるだけだった。
あいつのこんな顔を見れるのは僕だけだと思うと、喧嘩した自分がとてもかっこよく思えた。
だから強がって、「こんな傷屁でもねぇよ」と絆創膏を剥ぎ取ったりしていた。
…本当は絆創膏を剥ぐのも痛かったなんて、絶対言えなかった。