雪がとけたら


…僕はまだ父さんに、湯潜り競争で勝ってない。

もっと大きくなったら勝たせてやるって、父さんそう言ったじゃんか。


僕はもう、永遠に父さんに勝てないじゃんか。






「あたしが側にいる」


僕を抱き締めながら、あいつは呟いた。


「ずっとずっと、側にいる。雪ちゃんを絶対、ひとりぼっちになんかさせない。」


少し離れて、僕の顔を見る。

二人の顔は、涙と水でぐちゃぐちゃだった。







「…約束よ。」







下唇を噛み締めて、僕は泣きながら頷いた。


そしてもう一度、抱き締めあった。




「俺…父さんと母さん、大好きだった。」
「…うん」
「大好きだったよ…っ」
「…うん」
「でも俺…」




冬の風が通りすぎる。




「悟子と一緒にいたい…。」


「うん…っ」








……………




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