雪がとけたら
「俺、京都より大阪に行きてぇなぁ。USJに行きてぇ!」
「もう、雪ちゃんはいっつもそう言う!京都だって素敵な所よ?」
「なんだよ、悟子の知ったかぶり!行ったことないくせにさ」
「あたしはないけど、お母さん達が…」
あいつはいきなり口をつぐんだ。
僕は振り返る。
あいつが口をつぐんだ理由は、僕が一番わかっていた。
「おばさん達が何?」
前を向きなおして僕は言った。
サッカーボールを軽く蹴る。
少ししてから、あいつは口を開いた。
「お母さん達が…学生旅行で、行ったことがあるって言ってたから」
カタカタと、僕のランドセルが鳴った。
「そっか。じゃあうちの母さん達も行ったのかな」
サッカーボールを蹴る音が、二人の間に響く。
わからなかったけど、後ろであいつが微笑んだ気がした。
…あいつはあの日から、僕の前で両親の話題を出すことを躊躇っていた。
僕に気を使ってだろう。
でも僕は、そんなこと気にして欲しくなかった。
僕にとっては、あいつの両親は本当の両親と変わらない。
あいつもきっと、同じだと思う。
避けたりせずに、一緒に乗り越えていきたかった。