雪がとけたら


……………


「雪ちゃん、これ持って行きんさい」


ボストンバックに荷物を詰めていた僕に、おばあちゃんが小さなポチ袋を差し出した。

「少しじゃけどお小遣いじゃけぇ。雪ちゃんの好きに使いんさい」
「…ありがとう」

僕は素直に受け取った。お札が数枚入っていた。

「おばあちゃん、何か欲しいもんないの?お土産買ってくるよ」
「ばぁのことはええんよ。元気な雪ちゃんの笑顔と土産話が、一番のお土産じゃあ」

古い湯飲みをずっとすすって、おばあちゃんは言った。
僕はその姿を見ながら、お土産は湯飲みにしようと密かに決意した。


ジッとチャックを閉め、膨れたボストンバックをポンッと叩く。

ふいにあいつとの会話を思い出して、躊躇いながらも口を開いた。


「なぁおばあちゃん。」
「ん?」
「京都…母さん達も、行ったのかな?」


お茶をすする音が消え、部屋には古いねじ巻き式の時計の音が響いた。


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