雪がとけたら


やがておばあちゃんは湯飲みを置き、口を開いた。


「…そうじゃねぇ…」


僕はおばあちゃんの方に向き直り、言葉を待った。


「あんたの母さん…夏奈子と父さんは、京都で出会ったんよ」

僕は予想外な答えに目を丸くした。

「二人が大学生の時…夏奈子は美弥ちゃんと、父さんは学校の友達と、京都に旅行に行ったんよ」

美弥ちゃんとは、悟子の母親だ。

「清水寺っち知っちょるかねぇ?そこに地主神社っちいう神社があるんじゃけど…二人はそこで出会った」

清水寺は、旅行で行く。
僕は身動ぎ一つせずに聞き入った。

「あんたの父さんは、夏奈子に一目惚れした。信じられんけど、いきなり告白したんよ。『向こうの石にたどり着けたら、付き合ってくれませんか』って」
「向こうの石?」
「地主神社にはねぇ、『恋占いの石』っちゅうのがあるんよ。一対になっちょって、目を閉じてもう一方の石にたどり着けたら、恋が成就するっちゅう言い伝えなんじゃあ。」
「父さんは、それでたどり着けたんだ」

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