雪がとけたら


ふふっと意味深な笑みを浮かべ、おばあちゃんは言った。

「いんや、たどり着けんかったんよ。これがまた父さんは方向音痴でねぇ。目を閉じたらまっすぐ歩けんのんちゃあ」

確かに父さんは方向音痴だった。知らない所に行くと、必ず頭をかくことになる。

「それでも諦められん父さんはねぇ、何度も何度も挑戦したんよ。その姿に心打たれた夏奈子は、『じゃあ、お友達から』って」


おばあちゃんは、再び湯飲みを手にした。

僕は「ふぅん」と呟きボストンバックに目を移す。

両親の馴れ初め話というのは、妙に気恥ずかしいものだった。


「その地に雪ちゃんが行くんじゃねぇ…。こういうのを、巡り合わせっちいうんじゃろうねぇ」


僕はおばあちゃんの話を心で繰り返した。



『巡り合わせ』



父さん達が出会った場所に、僕はあいつと行く。

なんだかすごく、不思議な気分だった。



「じゃあ、明日早いし…もう寝るね」

僕はその気持ちのまま、立ち上がった。

おばあちゃんは軽く僕の方を向き、ゆっくり言った。



「あぁ、お休み」







……………




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