雪がとけたら


それでもやっぱり恥ずかしくて、僕は布団から起き上がった。

「おい、どこ行くんだよ」
「うっせーな、トイレだよトイレっ!」
「とか言って、戸田に会いに行ったりするんだろぉ~?」

冷やかしを背中に浴びながら、僕は荒々しく部屋を出ていった。



思い切りドアを閉めたので先生に気付かれたかと思ったが、しんとした廊下には誰の気配もなかった。

軽く胸を撫で下ろし、フロアに向かって歩く。

別にトイレに行きたい訳でもなかったので、自販機の明かりがついているフロアで時間を潰すことにした。



…今戻ったら、また冷やかされるんだろうな。

そう思いながら、ソファーにどっと腰をおろす。

フロアはびっくりするほど静かで、自販機の機械的な音だけが耳に響いていた。

僕はその音を聞きながら、ゆっくりと瞼をおろす。



…ほんとは、ちょっとだけ期待してた。

あいつも外に出てるんじゃないかなって、少し思ってた。

でもこの静けさが、僕の期待を打ち破った。

目を開けて、軽く溜め息をつく。




…清水寺で会った以来、あいつとは会っていなかった。



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