雪がとけたら



……………


「雪ちゃん、早く歩かないと遅刻しちゃうよ」


これはあいつの口癖だ。


小学校までの通学路、見つけた小石を蹴りながら歩くのが好きだった僕に向かって、あいつはいつもそう言っていた。



「先に行けよ」というのが、僕の口癖。

これを言う度に、あいつは軽く肩を落として、僕が蹴る石の前をゆっくりと歩き始める。


僕は知っていた。


あいつが決して僕を置いていったりしないことを。


だから僕は安心して、小石を蹴ることができていたのだ。



カタコト鳴るランドセル。

コツンと転がる灰色の石。

目の前で揺れる小さなウサギ。





この頃のあいつは、多分僕より大人だった。

この頃だけじゃない、いつも僕より一歩前を歩いていた。

身長も体重も精神年齢も、あいつは僕より一歩前を進んでいた。

僕の中で男のプライドが芽生えるまでは、それが当然の様な気がしていた。


どれだけ石を蹴っていても、あいつは絶対僕の前にいてくれる。

そんな安心感が、いつも僕を包んでくれていた。





…それも全て、僕の中に男のプライドが芽生える前の話だけど。


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