雪がとけたら


「…別に。なんとなく」
「なんとなくって…」

僕は恥ずかしくなり、言葉を濁した。

あいつともっと思い出を作りたかったなんて、口が裂けても言えなかった。

僕等の間に、夜の静けさが満ちてくる。


「…この傷、どうしたの?」

ふっと目をやったあいつの膝には、女の子らしいキャラものの絆創膏が張られていた。

あいつは少し戸惑った様に言う。

「…転んだの」
「どこで?」

軽い質問だったが、あいつは先を続けようとしなかった。

そんな態度をとられると、益々気になってくる。

「なんだよ、どこだよ」
「だから…」

あいつは僕に軽く背を向けて呟いた。


「…地主神社」


…予想外の場所に、僕は二の句が繋げない。


「だって雪ちゃん…やりたきゃ一人でやれって言ったでしょ?…どうしてもやりたかったんだもん」

あいつは小声で続けた。

「あれ…なかなかうまくいかなくて。でも…どうしてもたどり着きたくて、何回もやったの。…転んだなんて、雪ちゃんには言いたくなかったのに…」

あいつはそこで言葉を切った。

< 52 / 300 >

この作品をシェア

pagetop