雪がとけたら
僕はあいつの背中を見つめた。
僕より背が高いのに、いつ見てもあいつの背中は小さく見える。
僕はなるべく優しい口調で言った。
「…なんで言いたくなかったの?」
「だって…」
あいつは振り向いた。
二人の目が合って、どちらからともなくそらす。
「…なんか、縁起悪いじゃん。転んだなんて…」
あいつは俯いて言った。
自販機のライトに照らされたあいつの頬には、長いまつげの影ができていた。
ライトは顔に影を作り、あいつの高い鼻が一層際立って見える。
僕はそんなあいつの顔を見つめながら、言った。
「…じゃあ、いつか二人でしよう。いつかもっかい二人で来て、もっかい二人でしよう。」
僕の言葉に、あいつは顔を上げる。
いつもは僕が見上げる形になるけど、座っていたから視線は同じ位置だった。
「二人でやったら、きっと転ばないよ。」
あいつは小さく微笑んだ。
僕も同じように微笑んだ。
この小さな笑顔を見れるのは、世界中で僕だけであって欲しいと願った。
…その日僕等は、初めてキスをした。