雪がとけたら


「えぇ~?あたしの名前、ちゃんと舞妓さんの中にもあるのに」
「俺だって探せばあるよっ」

僕等はお互いひかなかった。

目を合わせて二人で眉間にしわを寄せていたが、どちらからともなく吹き出した。


「あははっ、何ムキになってるのぉ?」
「お前が言い出したんじゃんっ」

二人で声を揃えて笑う。

ふうっとあいつは息をつき、ストラップを掲げて言った。


「じゃあ、二人で買お。あたしが舞妓さんの『ゆきちゃん』で、雪ちゃんが新選組の『さとちゃん』。」


にこっと笑うあいつ。



「二人にしかわからない、秘密の暗号みたいだね」













…今でもそのストラップは、僕の携帯についている。

少し色褪せた『さとちゃん』。

キャラクターが持っていた誠の旗も、いつの間にか折れていた。


僕は多分、一生これを外さない。

だってあいつの携帯にも、きっと『ゆきちゃん』がついてるから。


誰にも秘密の、二人だけの暗号。



…僕等の恋の、たったひとつの証。








……………





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