雪がとけたら
第四章【成長過程】
……………
僕は多分、普通の小学生は経験しなくていいことを経験したのだと思う。
それがいいだとか悪いだとかは思わない。
ただ確実に、あの時期に経験したことは今の僕に繋がっていると思うんだ。
例えば僕の中に小さな歪みがあったりだとか、小さな優しさがあるのであれば、その種は小学生の時期に蒔かれたのだと思う。
そんな時期にも、やがて終わりはくる。
僕は、小学校を卒業した。
…「全然卒業って感じじゃねぇな」
胸の花をぽんっと投げて、僕はあいつに言った。
「みんな同じ中学だもんね。実感ないんじゃない?」
あいつが話し終えると同時に、投げた花が手元に戻る。
後ろを歩くあいつは、僕みたいに花なんかで遊んでいない。
あいつの花は、ちゃんと綺麗に胸元で咲いていた。
卒業式用に買ったのであろう紺色のワンピースは、あの日の黒いワンピースを彷彿させる。
ただ何故か、あの日のあいつの記憶は辛いものではなかった。
両親の死は今でも僕に重くのしかかるけど、葬式の日のあいつを思い出すと、何故だかすっと気持ちがクリアになる。
卒業式の日のあいつも、そんな感じだった。