雪がとけたら



「ねぇ雪ちゃん」


いつものあの声が、僕を呼んだ。


「手、繋ごうよ」

あいつは言った。

「最後だよ?小学校の通学路、こうして二人で歩くの」

僕は歩きながら、花をもう一度高く投げた。


「…いいじゃん。どうせ中学も同じなんだし」


すとんと花が手元に落ちる。

僕は手を差し出さなかった。


嫌なわけじゃなかった。

嫌なわけがなかった。


ただ、僕の中に小さな矛盾が生まれていた。

その矛盾の理由がわからないまま、あいつと手は繋げなかった。

当たり前の様に側にいて、一番近くにいたあいつ。

だからこそ生まれた、小さな矛盾だった。



「…ふんだ。」



あいつは小さく呟いた。

小学生でいられるのは最後だからと、似合わないランドセルを背負っている。

ウサギのマスコットが、ランドセルと一緒に不規則に揺れていた。







……………



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