雪がとけたら
「…雪ちゃん…あたしのこと、好きなの?」
驚いた様に呟くあいつに、僕は眉間にシワを寄せながら答えた。
「はぁ?何いまさら言ってんだよ。嫌いなわけないじゃん」
当たり前のことを聞くあいつを不思議そうに見つめる。
そんな僕を見て、あいつは軽く微笑んで言った。
「…あたしも、雪ちゃん大好きよ」
…そんなの当たり前のことだった。
当たり前だと思っていた。
なのにあいつの口からその言葉が出ると、僕は何故だか落ち着かなかった。
何故だか心臓が速くなり、顔が熱くなるのがわかる。
「雪ちゃん?」
僕の顔をのぞきこむあいつと目があうと、心臓は益々速くなって、僕は「先に帰るっ」と言って駆け出してしまった。
夕方の風を掻き分けながら、胸をドンッと叩く。
…なんだこれ?
俺、どうしちゃったんだ?
俺は悟子が好きで、悟子は俺が好き。
そんなの当たり前のことじゃないか。
俺は父さんが好きで、母さんが好きで…それと同じことじゃないか。
…何が違うんだ?
何がこんなに、ドキドキさせるんだ?