雪がとけたら
しばらくして、あいつが小さな声で呟いた。
「…原田さん?」
僕は答えない。
沈黙が、答えになっていた。
「そ…か。うん、そうだよね」
あいつは少し困った顔をして、
指で髪を耳にかけた。
「そうだよね…。雪ちゃんには…原田さんがいるもんね。」
ドクンと心臓が跳ねる。
あいつの口から出た真実に、明らかに戸惑っている自分がいた。
「ごめんね。…帰るよ」
あいつは小さく笑って、帰路に足を向けた。
僕は思わず追いかけそうになったが、その衝動を抑えた。
佇む僕に向かって、あいつは振り向いて言った。
「バイバイ」
…何てことない一言だった。
でも凄く違和感を覚えた。
あいつの口からでたその一言は、聞き慣れないものだった。
あいつが僕に「バイバイ」と言うことは、殆んどなかったから。
「また明日」が、普通だったから。