雪がとけたら
「わっ!」
突然耳元で叫ばれて、僕は心臓が飛び出る程驚いた。
その高い声の主を確認するために、ゆっくりと振り向く。
僕の耳元に手のひらで筒を作り、勝ち誇った様に微笑む女の子がそこにはいた。
「…原田」
僕は強ばった肩の力を抜き、彼女の名前を呟いた。
「注意力散漫だぞぉ?」
原田は僕の頭をくしゃっとしながら言う。
水をかぶった頭はだいぶ乾いていた。
「原田…お前いつから…」
「ん?『誤解されたら困るから』の辺かな?」
口元に人差し指をあてて答える原田に、僕は再び驚かされた。
…ってことは、あいつとのやりとりを聞かれたってことじゃんか。
冷や汗が背中をつたう。
「あの、原田…」
「いいよぉ、気にしないから」
僕が言いかけたことを先読みし、原田は手を降りながら言った。
「言ったでしょ、あたし告白した時。『戸田さんを好きでもいい』って。相手はあの戸田さんだもん。長期戦になることは覚悟の上だよ」
僕の首にかかったタオルで、少し湿っている僕の頭をくしゃっと拭いた。
「いつかあたしだけを好きになってくれたら、それでいいよ」