雪がとけたら
「戸田さんが、今日引っ越す」
…え?
瞬きすら忘れた僕に、西は続けた。
「さっき…戸田さんが家に来たんだ。その手紙持って、『雪ちゃんに渡して欲しい』って。俺、戸田さんの様子がおかしいことに気付いて…聞いたんだ。そしたら…」
僕は西の話が終わる前に、封筒を開けた。
手が震えてうまく開かない。
白い便箋にはあいつの文字で、『雪ちゃんへ』とあった。
「今日の3時半の新幹線で発つらしい。お前には…言わないで欲しいって言われたけど…」
僕は手紙を握りしめた。
傘を放り投げて、その場を駆け出そうとした。
「中川っ!」
西の声が背中を追う。
でも僕は、駆け出すことが出来なかった。
西の視線の先も、きっと僕と同じだったと思う。
…霧雨の向こうに、原田が立っていた。
僕達三人は丁度等間隔をあけて、霧雨のに中立ち尽くしていた。