雪がとけたら


僕は原田の手を下ろした。
涙と雨で濡れた彼女の瞳をしっかりと見つめて言った。

「…ごめん。俺は…行かなきゃいけない。あいつのとこに今…行かなきゃいけないんだ。ごめん…原田。俺、やっぱり…」

原田は僕の手を握りしめて俯く。
小さな肩が小刻みに震えていた。
僕は彼女の小さな手を握り返して言った。


「…あいつが、好きだ。」


…僕は駆け出した。

スニーカーがパシャンと水溜まりを踏んだ。

霧雨は容赦なく、僕達の間に降り注いでいた。











…「大丈夫?」

ピンクの傘を西は差し出した。
うずくまった彼女は、顔を上げて無理やり微笑む。

「…ありがと」

立ち上がり、傘を握る。

「駄目だったなぁ…やっぱり。わかってたけど…やっぱ、辛いや」

手をおでこにかざしてへへっと笑うが、涙は誤魔化せない。

「あたし…カッコ悪…」

止まらない涙を拭う彼女に西は言った。

「…みんなカッコ悪いよ。あいつだって俺だって、人を好きになったらみんなカッコ悪くなる。」

ふっと顔を上げる彼女。

「西君も…カッコ悪いんだ」

西は軽く微笑んだ。

微笑んだだけで、何も言わなかった。




……………






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