雪がとけたら
…冗談じゃねぇよ。
何が『忘れてもいい』だよ。
忘れられるわけねぇだろ。
忘れられるわけねぇんだよ。
俺は悟子が…
…「悟子っ!」
人目も気にせずに叫んだ。
新幹線に足を踏み入れようとしていたあいつが、びしょ濡れの僕に目をやった。
肩で息をしてもまだ苦しい。
でも今は、それどころじゃなかった。
あいつの目が見開いていく。
手に持った駅弁がするりとホームに落ちた。
「雪…ちゃ…」
…僕はあいつの言葉を遮った。
遮って、抱き締めた。
雨に打たれてびしょ濡れだとかはどうでもよかった。
僕があいつより背が低いことももうどうでもよかった。
今、僕には伝えなきゃいけないことがある。
見栄やプライドなんかより、もっと大事なこと。
「…悟子」
僕はあいつから離れて、呟いた。
驚きを隠せないあいつの目は、瞬きを忘れたまま僕を呑み込む。