雪がとけたら


「ガキでごめん。悟子の気持ちなんて何にも考えてやれなくて…いっつも自分ばっかでごめん。」

身動ぎひとつせず、あいつは僕の声を聞いていた。

「俺…まだガキだし、多分今からも…悟子を傷つける。」

あいつの眉がきゅっと寄る。

「そんなことな…」
「それでもっ」

アナウンスが響く。
時間が近付く。


「それでも俺…やっぱりお前以外考えられない。」

あいつの目が歪んだ。

別れのベルが鳴る。


あと何秒あるだろう。


残り僅かな時間で、僕の精一杯を。



「…待ってる。悟子より少しだけでかくなって、俺、待ってるから。」


ドアが閉まる。


僕等の前に壁ができる。


あいつは頬を涙で濡らしたまま、ドアに手を寄せた。


僕もそれに合わせる。


あいつの口が動いた。

でも聞き取れない。


僕は必死に口の動きを読む。







『や、く…』








…新幹線は動き出した。

僕はドアから手を離す。


少しずつあいつが遠ざかる。



僕はドラマみたいに、走ってついていくなんてしなかった。


できなかった。


動けなかったんだ。



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