む☆げん愛
「早坂さん…
大人ですね…わたしだったらきっと許せない…」
『大人じゃないよ…』
早坂さんはそう言って、しがみついている私の腕をするりと抜けると
椅子に座りなおした
机に肘をつきながら話を続ける……―
『そんな風に割り切れるほど俺だって器用じゃなかった。
一度あった事実を
なかったことにするなんて無理だったんだ…
それからの俺はただ意地になって付き合ってた。
マスターにも、何とも思ってないフリして…
許したフリして…』
「サキさんとは…?」
『サキとは…
医師試験やら研修で忙しいことを理由に、ほとんど会わなくなった。
というか、会いたくなかったんだ……―。
サキとマスターが関係をもった事実に向き合いたくなかったんだ…
逃げてたんだ…!』
「そんな…逃げちゃいたい気持ちをもつのは当たり前です!
付き合っていられただけ早坂さんはすごい!!」
『その、付き合っていたのがいけなかったんだ…
サキを余計に苦しめた!
デートもろくにしない、電話も出ない、会っても目も合わさない…
そんなの付き合ってるって言えるか?』
ブルンブルンと首を横にふる
『だろ?
事実に向き合いたくなくて
俺はひたすら逃げてたんだ。
その事で結局、2人とも傷つけちまった…』
…ピピピ…ピピピ…ピピピ…
暗い空気を裂くかのように
院外コールが鳴った