む☆げん愛



目の前には、全国的にも有名なデパート。





「どこに行くんですか?」





『まぁいいから、ついてきて。』





エスカレーターに乗る。





エスカレーターは少し込みあっていた。





私たちは一列に並んだ状態。





早坂さんは一段高い。





「何階まで上がるんですか?」





『8階』




階が変わるたびに、
次のエスカレーターに乗り込もうとするたびに


私と早坂さんの間には、ほかの誰か買い物客が入った。




一生懸命、早坂さんのうしろをキープしようとするんだけど、どうしても上手くいかない。






私の目の前には、
デパートの買い物袋をたくさん両手にもったおばさん2人が、世間話をしながら上の階を目指していた。





その向こうに早坂さんの背中が見える。





はぁ……。


これだけ人が多いと仕方ないか。


8階を目指そう……――。




半分、一緒にエスカレーターに乗ることは諦めていた




その時…―――――





ギュッ。誰かに手をつかまれた。





その正体は…
見なくたってわかる。





大きくて、優しい手。





つながれた手からは、電気が通ったみたいに、一瞬にして私のカラダ中を駆け巡った。





『これだったら誰も入ってこれねーだろ』





ボソッと囁かれた言葉に、また耳から電気が走った。




嬉しすぎて、言葉がでてこない。





手はつながったまま、言葉も交さずに上の階を目指した。





このエスカレーターが、もっと続けばいいのに。





もっと人がいっぱいで込み合えばいいのに。





そんな無茶な願いは叶うはずもなかったけど…





早坂さんと手がつながっている間は、いろんな不安から解放された……――。






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