む☆げん愛


―8階―


早坂さんに連れられて入ったのは、デパートの奥にこじんまりとあった喫茶店。



店内に足を踏み入れた瞬間にわかった。





どうしてこのお店に連れてきてくれたのか。




店内の壁にかけられている絵画はすべて絵本作家が描いたもので、見慣れた絵や、見たこともない珍しいものまであった。





「うわぁ…。すてき」





『だろ?好きかなーって思った。

この店、学生時代によく来たんだ。

だから、店長もよく知ってる。

あの、奥の部屋がいいんですけど』




店員さんに声をかける早坂さん。




店員さんに連れられて入ったのは、扉のない奥まった場所にあった部屋。




テーブルが3つ並んであるだけの小さな部屋。





部屋に入ってすぐ、一面の窓。

夜にここからネオン街を見渡せば、間違いなく絶景のスポットになるだろう。




座席に案内されて、私の目に飛び込んできたもの…




私たちが入ってきた側の壁一面に、所狭しと並べられている大好きなジョン・カールの絵。




その作品のあまりの多さに、言葉を失った。





「すごい…。こんな絵、みたことない。」





『ここの店長、ジョン・カールの大ファンなんだ。

このあいだのジョン・カール展、ゆっくり見れなかっただろ?

ごめんな…』




「いえ、私も…それどころじゃなかったというか。

だから、大丈夫です」




それでここに連れてきてくれたんだ…。




『今度、店長に合わせてやるよ。愛音と話合うかもなー。

でも、男だからなー…

どうすっかなー。』





「えっ?」





『いや、何でもねー。

あの、すいません。
シフォンケーキお願いします』




ここのシフォンケーキは絶品だぞ。って豪語する早坂さん。





その必死に説明する姿が、なんだか子どもっぽくて笑ってしまった。




だけど、やっぱりけいちゃんの顔が浮かんできて、心からは笑えなかった。

< 396 / 411 >

この作品をシェア

pagetop