む☆げん愛
目の前に並べられたシフォンケーキ。
『とりあえず食え!
おまえが暗い顔してたら花戸さんはもっと辛いだろ。
それ食って笑え。』
「だって、私、けいちゃんに何もしてあげられなかった。
どうしたらいいんだろう…」
『あのなー、今は待つしかない。
花戸さんが自分で解決するのを。
だいたい、お母さんはまず自分を責めるんだ。
花戸さんの場合は、予定より1ヶ月以上も早く生んでしまった自分を責めてるんだ。
だけど、あれだけ径管の長さが短くて、ここまでよくもったよ。
羊水もきれいだったから細菌感染も考えられない。
ということは、ベビちゃんの成長が、こういう結果につながったんだ。
それしか考えられない』
「赤ちゃんが成長して、もう苦しいから、出ますってこと?」
『そう。だから何も、誰も、責めることなんてないんだ。』
「そっか…、赤ちゃんが成長したから。
だったら、暗い顔してるのはおかしいですね。
早坂さん、今の話、けいちゃんにも聞かせてあげてくださいね?
けいちゃんはきっと、自分から弱音なんて吐かないと思うから…」
『あぁ、わかったよ』
目の前のケーキを一口食べてみた。
おいしい…
生地がふわふわで柔らかくて、甘すぎないクリームがよく合う。
自然と顔もほころぶ。
やっとちゃんと笑えた気がする。
今日、早坂さんに会わなかったら、きっと夕飯ものどを通らなかったんだろうな…――。