枕の気持ち
病気…
寝具売り場に並んで居た私。深刻そうな顔をした女性がずいぶん時間をかけて枕を選んでいる。人目も気にせず枕に頭を置いてみたり、触ってみたり…。その手がついに私の所へ。私に頭を置いてみたり触ったり…。

結果私を気に入ってくれたみたい。その日から私のご主人はさきちゃんなの。

初めての夜、さきちゃんはなかなか寝てくれない…やっぱり私は合わなかったのかしら?
でも何時間かしてやっと寝てくれたの。

早速さきちゃんの過去から現在までを覗かせてもらう事にしたわ。

私は絶句した…。

それから毎晩私はさきちゃんの涙を吸い続けたの。

毎晩寝られなくて、枕が悪いと思っていたのね…。
私に変わっても寝られないし、さきちゃん自身も何故毎晩涙が出るのかもわかっていなかったわ。

その頃のさきちゃんの心は正常ではなかったわ。
そのうち、さきちゃんの頭に「死」って字が出て来たの。私に言葉を話せる機能が付いていれば…。

でもただ見守る事と涙を吸う事しか出来なかった。

「私、毎晩理由も無く泣いてしまうの」…そんな相談を誰かにするなんてさきちゃんのプライドが許さなかった。でもどんどんおかしくなる自分にも耐えられなかった。さきちゃんはある先生から精神科へ行くように言われたの…当然さきちゃんは怒っていたわ。

でも神様はさきちゃんを見捨てなかった。さきちゃんは半信半疑で精神科へ足を運んだの。

そこでの診断は…うつ病・強迫性障害・睡眠障害だったわ…。

先生の「よく僕の所に来てくれたね」って言葉…。
さきちゃんはその日、今までとは違う涙をたっぷり流したわ…私もしっかり吸い取ってあげた。
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