とりかえっこしようよ


「苦しくない?」


彼女の様子を確かめながら、キスをより深く、抱きしめる腕に力を込める。


ひかりちゃんが少しだけ眼を開く。


長いまつげが、震えていた。


それでも頷いてくれることが嬉しくて。


つい、このままひとつになりたい、と願った。



きっと、彼女も同じ気持ちだろうと感じた。


寝室へ連れて行って、彼女の全てを自分だけのものにしたかった。



……でも。

俺の中にわずかに残っていた理性がブレーキをかける。


『これ以上、彼女を傷つけるな!』と。




「……あのさ。

これ以上すると、もう止められなくなりそうだから。

名残惜しいけど、今日はおしまい」


理性を総動員してひかりちゃんの体を、そっと離した。



なのに。


彼女は俺のシャツをぎゅっと握ってきた。


ダメだってば。


仕方なく、その手を俺から離すと、首をかしげて悲しそうに見上げてきた。



「ダメだよ、ひかりちゃん。

あんまり可愛いことされたら、俺の理性が持たなくなるから。

このまま続けたいけど、今日は何も準備していないんだ」


「準備?」


「そう。

……今すぐ、俺と君の子どもが欲しいなら別だけど」


今、世界で一番欲しいものはそれ、だな。


ひかりちゃんもやっと気付いたらしい。



「タクシー呼ぶから、今日はもう帰ったほうがいいよ。

でも、明日もし暇なら、荷物の片づけを手伝って欲しいんだけど」


「うん、いいよ」


「荷物の片付けだけでは済まなくなるかも知れないけどね」


明日、忘れずに用意しようなんて考えてると知ったら、君は軽蔑するだろうか?


















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