Kiss me please!
「すいません!待って!」

大声で呼びながら男との距離を縮める。

男が振り向くのと望が腕を握るのが同時だった。

男は怪訝な顔で望を見下ろす。

思い切り走った望は息が整うのも待たず話しかけた。

「下敷き…になった時…怪我し…たんじゃないで…すか?」

「別にしてねーけど」

あれは望の見間違いかと思うほどアッサリと男は返事をした。

「え…?でも…手首振ってたし…。見せてください」

「はぁ?」

「いいから!」

望の強い口調に驚いた様子の男は、手首を握って筋を押さえる望を黙って見ていたが、ある場所を押さえられて小さな呻き声を上げた。

「捻挫…ですね。ごめんなさい」

謝りながら手早く持っていたハンカチで男の手首を固定した。

望の手際を見ていた男は感心したように問う。

「…あんた、医者?」

望は首を横に振り答えた。

「看護学生なんです」

「ふーん。それなのに自殺?」

男の少し小馬鹿にしたような口調に、思わず望の生来の勝ち気さが出た。

「ち!違います!ちょっとぼんやりしてただけですっ!」
< 3 / 21 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop