Kiss me please!
「恩人にそんな事言うんだ?それで許してやるって言ってんのに」

恩人という言葉を振りかざすこの男はどこまで図々しいのか。

「じゃあ許してもらわなくて結構です!」

体ごと背を向けて言葉を叩きつける望とは対照的にのんびりとした口調で男が責める。

「病院にも行かずさぁ、手首が動かなくなったりして…。そしたら俺困っちゃうよねぇ。キス一つで俺の人生大きく変わっちゃうかもなぁ…」

わざとらしく手首を押さえつつ望を見やる。

「だから病院行ってって言ってるじゃないですか!何なら一緒に行きますから」

「イ・ヤ・だ」

男は子供がだだをこねるように言う。

「自分の体とキスとどっちが大事なんですか!?」

「キス♪」

望は言い争いをしてるのがバカらしくなってきた。

はぁ…。
変なのに関わっちゃったなぁ…。

男は黙ってしまった望の顔を覗き込んだ。

視線を感じて望が顔を挙げると男と目が合った。

そういえば慌ててたのと怒ってたのとで男の顔をまともに見たのは初めてだ。

年はそんなに変わらないようだし、悪戯っぽい顔が可愛いかも…。
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