「俺とキスしてみない?」
「ぁ、ぁれ?
 ココって何処?
 教室なんて分かんないよー」

人気のないはずの校舎に、甲高い声が響く。

「体育館がココでー。
 第2多目的室があそこだからー、
 って。もーっと
 分からなくなって来た……」

角を曲がると、セミロングの黒髪をくしゃくしゃとかきあげながら、泣きべそかいている女のコが、ひとり。

「何してるの?」

道に迷ったんだなあ、と思いながら、俺は声をかけた。

ホントにだだっ広いんだ、この学校。

俺は一度来た場所は覚えるし、校内は探検済みだから、迷わないけど。

この校舎は、式典の時なんかに使える、絶好のサボりポイントだったんだけどな。

そんな場所に迷い込んできた子猫ちゃんをかまうような気持ちだった。

< 11 / 75 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop