優魂者
「……さて」
鉄パイプを正眼に構えて通り魔を見据える。一応武器は得た、しかし相手は何でも切り裂ける、不可視かつ瞬間発生する斬撃の軌跡を持つ。圧倒的に不利である。
しかし、こちらには一応直感がある。それを上手く感じれば、反撃する機会はあるだろう。
こんな修羅場であるのに関わらず、彼は冷静そのもの。それもそのはず、殺し合いじみた戦いは既に三度経験しているから、一応場慣れはしている。
そう考えているうちにしゃがめと身体が告げた。
しゃがむ、反らす、跳ぶ。それらを使い、直感で不可視の斬撃起動を避ける。機会を伺いながら、そしてその機会が訪れた。通り魔が左薙を放った瞬間の硬直。その瞬間を狙い、腕、関節を狙って切り上げる。そして命中し、たが。
「なーッ」
効いていない。確実に命中した、場所も関節にしっかりとミートしている。威力も成人男性の腕くらいなら簡単にへし折れるくらいの勢いは込めたつもりだ。なのにびくともしていない。効いている様子も無い。
有り得ない。
そう考えていると通り魔が両手を拡げて止まった。どうやら好きなだけ打ち込んでみろという表現らしい。
「…いいだろう」
そういって無類は鉄パイプを握り直した。