セレーンの祝福

「……!!」

自分の荒い呼吸だけが部屋中に響いていた。

まるで耳元で囁かれたようなリアルな声。

それは酷く哀しい、儚い音を持って、小さい子供をあやすように呟かれた。


当然この部屋に他の誰もいる訳はなくて。

いる訳が……


「……師匠…」


小さな椅子に腰掛けて、こちらをただ黙って見ている男が一人。

まぎれもない、隣の部屋にいる筈の師匠だった。


「師匠また勝手に人の部屋に……。私またうなされてました?」


カーテンから差す光の量から考えて、まだ夜も明けていない頃。

ただ彼は黙ってこちらを見ていた。

「師匠?……何か…」

微動だにしない彼に伸ばした手は、虚しく空を切る。

全く動こうとしなかったくせに、突然ゆらりと立ち上がり、踵を返したからだった。

腰掛けていた椅子を、流れるように元の机の前に戻し、ドアへと向かう師匠は何も言わない。


師匠がおかしい。


いや、おかしいのは今に始まったことではないけど、先日のあのラグスの使いが来てから、師匠は上の空でいる時間が多くなり、今までとは少し違っていた。

「まだ時間があるよ。もう一度寝るといい」

いいね、と念押しして。

今日初めて師匠が話したのはそんな言葉だった。


そう、まだ夜明けまでは時間がある。

カーテンの薄暗さからそれは分かった。


余程私うなされてた?


夢の内容はいつもと大体同じ。

ただ、最近になってより鮮明になってきている気がする。

師匠は心配して、あまり眠れていないのかもしれない。

いや、師匠のことだからホントに心配してくれてるかどうかは分かんないけど……。


師匠は、本当に大切なことは隠したがる。

特に私が悲しむ時は。


「ねぇ、ししょー。ロイがいないの。どこいったのかな?」

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