セレーンの祝福
「ロイちゃん、馬に跳ねられちゃったんですって!?聞いたわよぉ~」

でもどの道結構歳も取ってたから、ちょっとお別れが早まっただけだったのかしら……。

付け加えて、お気の毒ねって。

呆然としていた師匠は、こちらを伺って、またおばさんを見て。

きっと睨みを効かせて立ち上がる。

「まっ……なぁに…?もしかしてまだカミルちゃんには言ってなかったのかしら…?」

ごめんなさいね。

そう言い残して、おばさんはあたふたと帰っていった。

「……ししょー……ロイのおてがみ……」

手元のメモ紙を握る手に自然と力がこもって、点々と広がる染みが滲んでいくと同時に、文字は歪んでいった。

「おてがみ……うそだったの…?」

何も答えない師匠は、ただ髪を撫でてくれていた。

「うそ……だったの……」

とうとう目の前が何も見えなくなって、師匠の顔すらどんな表情をしているのか判別がつかない。

その後はもう散々で。

師匠を突き飛ばして部屋にこもると、わんわん泣いた。

もう手紙も何処へ行ったか分からなくて。

ただ、脳裏に浮かぶロイが、いつものように千切れんばかりに尻尾を振って、こちらを伺っている。

けど、もう触れることはできないんだ。

擦った目元が痛くて、また涙が溢れてくる。

泣き疲れて寝てしまって、目が覚めたら、師匠がこちらをじっと覗き込んでいた。

冷たいタオルを目元に置いて、目隠しをされる。

じんわりと熱を持っていた瞼がひんやりとして気持ちがいい。

「カミル。ロイは、あの空の星になったんだ。だから会おうと思えばいつでも会えるんだよ。それにね、庭にロイの新しい寝床を作ったんだ。そこにまた好物の骨をあげよう」

ね?

柔らかく同意を促され、私はゆっくりと頷いた。



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