セレーンの祝福
次の日にロイの好物の骨を寝床に置いてあげて、師匠の真似をしてお祈りを捧げた。

思えば、生き物が天に召されるという意味を知ったのは、この時が最初だったかもしれない。

どんなに願っても、どんな方法でも、天に召されたものは帰ってくることがない。

そう、師匠は呟いていた。

けれど、こうして残された人が忘れないでいることが、去ってしまったものへの弔いであると、彼は言う。

決して別れは悲しいものではなくて。

また次に会う時の約束をする時なのだと。



「…ん……」

二度寝の夢は酷く鮮明だった。

酷く懐かしい記憶。

心配している師匠を見たからかもしれない。

「って、もうこんな時間!?」

かけられた時計の針は既にいつもの起床時間を過ぎている。

急いでアウターを羽織ると、手櫛で髪を梳かして勢いよく部屋を飛び出した。

少し香ばしい匂いと、油の跳ねる音。

まさか……。

「師匠!ごめんなさい、寝坊しちゃいました!」

キッチンに立つ師匠は、意外と普通の表情をしていた。

てっきり思い切り不機嫌な顔してるものとばかり思ってたけど……。

そこは少し安心した。

片手にフライパン、片手に菜箸を持って、彼は涼しい顔でパスタを炒めていた。

「まぁ、二度寝したからにはそうなると思ってたよ」

二人分の皿に手際よくパスタを分けると、テーブルへと運ぶ。

いつも思うけど、やっぱり師匠はほぼオールマイティだ。

料理も洗濯も、家事一般はこなせて、外仕事もできる。

これで貰い手がないとは……師匠よっぽどモテないんだなぁ……。

というか何でもこなされると、私のいる存在価値が……。

「作るの面倒だから、次はちゃんと起きるようにね」

クルトンを散らしたサラダにドレッシングをかけながら、だるそうに言う師匠は、本当に面倒くさそうだ。

はいはい、すいませんでした。

席に着くといつものお祈りの時間。

最後の一言が終わると、二人は同時にフォークを片手にパスタをつつき始めた。


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