セレーンの祝福
師匠が何でいきなりあんな話をしたのか。

何であんなに深刻だったのか。

全然分からなかったけど。

あれから師匠が物思いにふける時間が増えたのは事実。

何か変なこと言っちゃったのかな……。

なんて、物思いは伝染する。

師匠が考え事をしていると、私も自然と考え事が増えたのだった。


師匠は最近、ふらっと家を出ては、夕方まで戻ってこないこともしばしば。

行き先も告げずに、庭仕事も家事も私に任せたままで。

そんな日が何日か続いて、師匠とは朝と夜しか顔を合わせなくなった。


「師匠。いっつも一体何処に行ってるんですか……?」

いい加減畑も一緒に作業してくれないと困るんですけど。

そう付け加えると、ローブのすそを翻して師匠はこちらを振り返った。

今日もまた何処かへ出かけるつもりだったらしい。

無職の癖に家のこともしないで、どういう保護者なのか。

そんなふうに問い詰めたい気分でいっぱいだったのに。

「……秘密だよ」

にっこりと悪戯っ子の笑みを浮かべて、彼は扉の裏に消えた。

そんな笑顔を見せられたら何も言えないじゃない。

あの笑顔に呆然とした自分に鞭打ち、普段は着込まない私用のローブを手に取って、少しの時間差で家を出る。

遠くに見慣れたローブ。

道行く人達が声をかけるのも気にかけずに、さっさと歩いていく。

間違いなく師匠だ。

「……今日こそ突き止めてやるんだから」

私は遠くから彼の姿を追いかけた。



道行く村の人々が挨拶に声をかけてくるも、私は上の空で返事をしていた。

いつも通る道。

次第に見えてくる見馴れた建物。

あれは。


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