セレーンの祝福
「……っっ!」
瞼の裏まで白く染まるような眩しさに、私の意識は覚醒した。
朝?
カーテン開けたまま寝ちゃったんだっけ……?
たまらず手のひらをかざすと、幾らか和らいだ光は次第に力を弱めて、ぼんやりと視界に薄暗い部屋の中が映る。
「……っ!」
その端に黒い影。
勢いよくベッドの上で後ずさると、それほど大きくないベッドは軋んだ悲鳴をあげて、壁にぶつけた後頭部が放った鈍い音を掻き消した。
「な……何やってるんですか、師匠……」
ベッドの傍らでこちらを覗き込む彼の手元には、私の愛用している手鏡。
カーテンの隙間から漏れる淡い朝日を一身に集め、先程まで頭を預けていた枕を明るく照らしていた。
緩く結わえた銀糸を肩にたらし、けだるそうな表情は、悪趣味な微笑を象っていた。
藍色の瞳は、虚ろにこちらを映している。
「師匠…一歩間違ったら失明しますよ……?」
一言も発しない彼は、軽くあくびを噛み殺すと、サイドテーブルに手鏡を放り、ゆらりと音もなく立ち上がった。
「あ…あの……?」
「こんな朝方にうなされてて、うる……可哀想だったからね」
あぁ……うるさくて、目が覚めたんですね。
すいませんでした、ともごもご呟くと、彼は無言で頷き、静かに部屋から去っていった。
隣の部屋の扉が音を立てたことから、自室に戻って師匠は寝なおすのだろう。
暫し、ぼぅっと部屋を見回す。
「……起きよ」
のどかな鳥のさえずりが、すがすがしいばかりに辺りに響き渡っていた。
チュニックの上からアウターを羽織ると、キッチンへと足を向ける。
そして、貯蔵庫から食材を拾い上げ、火種に風を送って火を起こすと、朝食作りに取り掛かるのだった。
真っ白な空間。
銀色の閃光。
久々にあの夢を見た。
小さな時から見続けた、あの夢。