セレーンの祝福
鍋の中でぐつぐつと煮える昨日の残りのスープ。
器によそうと、テーブルへと並べていく。
二人分。
こうして食事をするのは、もう10年程になる。
今や私は、師匠が私を拾った時と同じ歳になった。
結婚適齢期に8歳になる子供を抱えて。
うん、師匠がいつまでも独身なのは、私のせいかもしれない。
そうとしか考えられない。
自問自答の答えに満足すると、最後によそったサラダにドレッシングをかけ、全てが出揃ったテーブルについた。
「カミル」
全く答えようとしない私に痺れを切らしたのか、強い調子で呼ばれた名前。
ふと上げた視線の先には、新聞を折り畳みながらいぶかしげな顔をした師匠。
「あぁ、とりあえず、食べましょう」
慌てて胸元に手を組むと、師匠も渋々手を組み、同時に祈りの言葉を呟いた。
今日も平等に糧を授けられたことを感謝する。
そういう祈り。
教えてくれたのは、やはり師匠だった。
フォークを手にすると、鋭い視線で言葉の続きを促しつつも、手早い動きでベーコンを切り分け、口へと運んでいく。
相変わらず器用だ。
「いや……大したことじゃ……。ただ、久しぶりに夢を見ただけで」
師匠は、意外に心配性だ。
そういう優しさも知っているから、ちょっと度の過ぎた悪戯をされても許してしまう。
途切れた食器の擦れ合う音が彼の動きを止めたことを示していて、あぁ、また心配をかけてしまったと、自分に苦笑する。
「でも、大丈夫です。もう私だって18ですよ?」
そんなことで泣いたりしません。
にかっと笑って見せたものの、彼の表情が晴れることはなかった。
「……そう」
目を伏せると、瞼を縁取る銀糸が白磁の頬に影を落とす。
整った顔立ち。
男性にしては長くて綺麗な指。
手持ち無沙汰に持ち替えたスプーンがスープをかき混ぜていた。
「あの、師匠!それより、今日は教会へ行く日ですよね?」