セレーンの祝福
強引に変えた話題に自分でも失笑しそうになる。

でもこうでもしなきゃ、こんなにしんみりした空気のままで、せっかくの一日の始まりが台無しになってしまう。

そう思って。


村外れにある教会。

小さいが、こんなド田舎にあるとは思えない繊細な造りをしていて、森の緑からあふれる木漏れ日を浴びて太陽と月をデザインしたステンドグラスがキラキラと輝く。

週に1回。

通わなければならないわけではないが、必ず師匠と私は足を運んでいる。

もちろん祈りを捧げる習慣もあるが、私達二人にとっては、散歩のついでのようなものだ。

最も、私にはもっと別な楽しみもあったけれど。

「今日は何の花を持っていきましょうか」

うきうきとしながらパンを千切って頬張ると、師匠は仕方ないなと言わんばかりの苦笑で応える。

「丁度庭先にプリムラが咲いていたから、それを持っていこう」

「あ、いいですね。そうしましょう!」

白い小ぶりの花を思い出しつつ、皿をまとめていくと、早く出かけられるようにと後片付けを急ぐ。

師匠はだるそうに支度をしに自室へ戻っていった後だ。

大分日が昇ってきたのを窓の内側から眺めて、鼻歌交じりに私もキッチンを後にした。


プリムラを片手に、通い慣れた道を行く。

隣を歩く師匠は、ローブを着込んで渋い表情をしていた。

春にしては少し肌寒い今日は、寒がりの彼にとって機嫌を害す要因の一つになったに違いない。

「……師匠、いい加減機嫌直したらどうですか」

大人のくせにみっともないです、と零すと、冷たい視線で射抜かれ、口をつぐむしかなかった。

――…数分前。

「ちょっとぉー!!!!」

けたたましい騒音に足を止めると、振り向いた先に近所のおば様が立っていた。

何を伝えたいのか、しきりに手を振り回している。

「…何か?」

迷惑そうな様子を隠そうともしない師匠に肘鉄を食らわすと、彼の眉間は一層深い溝を刻んだ。

「あんた、な~にやっちゃったのよぉ~。ラグス国から数人来て、あんたを探し回ってたわよぉ~?」

何故か得意げにそう告げるおば様は、問い詰めるような視線を向けてくる。



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