セレーンの祝福
ちょっと身なりがよかったから、結構お偉いさんじゃないのかねぇ、なんてぶつぶつ呟いているのは、独り言なのかこちらへの問いかけなのか。

顔を見合わせた私達をよそに、彼女はずっと思いつくままに何かを喋っていた。

「聞かれたけどねぇ、ちゃんと言ってやったわよぉ~、よく知らないわってね!」

最後にそう締めくくると、かばってやったのよとばかりに更に胸を張る。

一応お礼を言うものの、こんなに大声で話されては、近くにその人達がいたら意味がないのでは?

そう思いつつ隣に視線を走らせると、思った通りの表情で彼は佇んでいた。

「師匠、じゃあ、行きましょうか」

「そうだね。さっさと行ってさっさと帰ってこよう」

まだまだ喋り足りなさそうに口を開きかけたおば様を制して、慌てて踵を返すと、背中に投げかけられた言葉は野次馬根性丸出しのものだった。


そして今に至る。


「けど、ほんとに師匠……ラグス国のお偉いさんに目をつけられるって…何かしたんですか?」

ラグスと言えば、東西に分かれた大陸の内、西側を征す大国。

こんなド田舎からは相当に距離がある。

10年前の「セレーンの祝福」と呼ばれる大戦後、それを治めたラグス国が世界を統治することになった。

その大戦で活躍した女性がセレーン。

ラグス王の勝利に手を貸し、今では守り神として崇められているという。

それも村の噂話で聞いただけ。

私達にとって御伽噺にも等しい存在で。


師匠はこれまで一緒に過ごす中でそんなところへ行ったことはない筈だ。

ずっと一緒にいたからこその疑問。

そういえば、私と出会う前の師匠のこと、私何も知らない。

その大戦で出稼ぎに出てた……とか?

こんな細身の体で剣なんか振り回したら、すぐポキッといっちゃうんじゃなかろうか。

想像したら笑えない。

というより、師匠が「師匠」たる由縁も分からず、ただそう呼んでいて。

今は自給自足の生活で、特に何か定職に就いているわけでもないし、どんな特技を持っているのかすら分からない。

人よりちょっと器用なくらい?とは思うけど。


「師匠……?」


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