セレーンの祝福
あれからずっと黙ったまま。

師匠は前を見据えたまま、なるべく人に会わないような道を自然と選んで着実に教会へと進んでいった。

徐々に近付く見慣れた建物は、さんさんと輝く太陽の下で、いつものように柔らかな雰囲気を纏い、佇んでいる。

一週間ぶり。

プリムラを握り直すと、自然と笑みがこぼれた。

と、隣で足を止めた彼を見上げると、対照的な厳しい表情が見えて、私の心臓はきゅうと締め付けられた。

どんなに私が怒られるようなことをしても、ここまで恐い顔をしていたことはない。

「師匠……」

視線を辿って、はっとする。

柵に寄りかかるようにしていた影は、こちらに気づくと、ゆっくりと体を起こした。

チョコレートを溶かしたような髪に、白い肌が映え、ぱっちりとした目は、青く澄んだ輝きを持っている。

柔らかく微笑みを形作る薄い唇は、何かを呟いたようだった。

中に来ている服までは判別がつかないが、上等な布を使っているだろうローブを見ただけで、ある程度地位のある人なのだろうと思わせる。

まだ私と同じくらいの年頃だろうと思うけれど。

どうやら彼は師匠の知り合いらしかった。

「エオル。久しいな。元気にしていたか?」

エオル。

師匠の名前。

ずっと昔、本当に私が小さい頃、その名を聞いたことがある。

けれど、今となっては師匠のことを、誰も名前では呼ばなくなった。

それは何でだっけ?


うんともすんとも言わない師匠を気にすることもなく、彼は私に視線を移し、にこりと微笑んだ。

「エオルに隠し子がいたなんて知らなかったな」

「へ?」

私の反応を見て違うと踏んだのか、彼はきょとんとして、師匠の様子を伺った。

答える訳もなく、師匠は不機嫌そうだ。

「えっと……師匠に拾ってもらって、育てていただいたんです」

カミルです。

そう告げると、彼は笑って名前を復唱すると、右手を差し出した。

僕はイサ、よろしく。

そう言葉を添えて。

「僕も一緒に祈りを捧げさせてもらうよ」

「勝手にするといい」
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