セレーンの祝福
教会までの数十歩、イサと名乗る少年は嬉しそうに話し始める。

村を探し回ったこと。

おば様と話したこと。

「よく知らないわ」と言った割りに、今日辺り教会へ来るかもしれない、と口を滑らせたこと。

……おば様…。

次に会った時の師匠の反応が恐すぎて、それを聞いた師匠が今どんな顔をしているかなんて確かめたくもなかった。

教会の中は、いつも通りの暖かくも澄んだ空気で、静けさが辺りを包んでいた。

私達が向かうのは、教会の奥の一室。

質素な造りの扉は、お伽噺の世界へ通じる扉。


真っ白なベッドに寄り添うように横たわる彼等は、いつ見ても美しかった。


白磁の肌に金と漆黒の髪が実に対照的で。

純白の布地に金糸の刺繍が上品な服に身を包み、指を絡ませ、頬を寄せて眠る姿は、見る者を魅了する。

私もその一人。

彼等はどんな話をして、どんな風に微笑み合って、どんな幸せを生きてきたんだろう?

見ているとそういった想像が掻き立てられて、ほっこりした気分になる。

彼等の周りは花畑さながらに、皆が捧げた花が散りばめられていて、その中にプリムラを優しく添えた。


師匠は彼等の絡んだ指にそっと手を合わせると、そのままじっとしている。

語りかけるような姿はもう10年は見慣れたもの。

祈るように瞼を下ろしている姿は、いつ見ても時が止まったように感じられる。


小さな頃は、師匠のその姿がまるで王子様のように見えたっけ。

まぁ、今では師匠の性格が邪魔して、どう見ても王子様には見えなくなってしまったんだけれども。

「…………あの?」

「ん?何?」

ふと気づいた視線は、少し離れた所に立っていたイサだった。

じろじろと見られている手前、彼を正面切って見返すことはできない。

そんな度胸はなかったり……。

「いや、そんなにじっと見られると……」

ちらちらとイサを見返すも、面白そうにこちらを伺っている彼の視線は変わらずこちらを向いていて、寧ろ口の端を愉快げに持ち上げる彼は、その青い双眸をすっと細めた。

妙に威圧感のある、師匠とはまた違ったオーラが漂う。

同い年位には思えない空気を纏う一瞬を見つけて、どぎまぎしてしまうのは、仕方ないことだろう。





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